技術主導によるイノベーションの実現を

 

人類の歴史を振り返れば分かるように、技術の進歩は経済成長の新たな波を生み出してきました。蒸気機関しかり、電気しかり、そして今はデジタル技術がその担い手となっています。大きな違いは、今日のデジタル技術による成長はかつてないほど巨大な波になるということです。企業のIT部門はもはや組織の周辺的な一部門ではありません。デジタルファイブフォースにより、技術は企業の中核を占め、商品やサービス、ビジネスモデル、そして顧客体験をも変革する推進力となっています。


ITがビジネスの領域にどれほど深く入り込んでいるか、その例をご紹介しましょう。平均的な自動車1台には50~60のマイクロプロセッサ電子制御ユニット(ECU)が搭載されており、そのプログラムを構成するソースコードは5,000万~6,000万行に上ります。小売店はさまざまなチャネルから流れ込むデータに頭を悩ませ、デジタルチャネルの管理やビッグデータの高速処理能力を必要としています。製造業は工場内での作業や予防保守にIoTの活用を始めています。行政のシステムは日本の年金情報流出問題に見られる通り攻撃の標的として狙われており、データの機密性確保が重要な課題となっています。ITはもはやブラックボックスのサービスではありません。イノベーションだけでなく、ビジネスプロセスにおいてもITが大きな役割を果たす時代が訪れています。


問題は、技術が進化するペースが加速していることです。どの技術にどのタイミングで投資すべきかという問題には、あらゆるCIOが頭を悩ませています。「大きなチャンスをつかみ損なう」というリスクが、非常に現実味を帯びているのです。TCSではこうしたリスクを最小限に抑え、イノベーションでリードし続けるために、3つの柱からなる戦略を取っています。それが、イノベーションを支えるポートフォリオ、オープンイノベーション、デリバリープロセス・スキームの3つです。


リスクを分散するイノベーション・ポートフォリオ

TCSでは、ハーバード大学ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授の定義を用いて、イノベーションを3つのタイムスパンで分類しています。

  • 派生的イノベーション: TCSの投資の約60%は、市場に投入されている既存の商品やサービスを改良することに使われます。市場リーダーが重視するのは、こうした漸進的なイノベーションです。
  • プラットフォーム・イノベーション: 投資の約25%は、技術的に近接する分野に乗り出すために費やされます。2~3年という近い将来を見据えたイノベーションです。
  • 破壊的イノベーション:物事を根本から変えるようなイノベーションです。これまで手が行き届かなかった分野をターゲットとし、すぐに使える粗削りなオファリングとして、最初は低価格帯で提供されます。TCSでは投資の約15%を充てていますが、破壊的イノベーションは失敗に終わる可能性も高いものです。実際、クリステンセン教授も「市場リーダーはこの種類のイノベーションが不得意」だと分析しています。TCSはこうしたリスクを軽減するため「オープンイノベーション」という考え方を採用しています。

グローバル体制で臨む「オープンイノベーション」

TCSは世界各地に張り巡らされたネットワークを持っていますが、それでも全てのイノベーションを自社の力だけで成し遂げることは不可能だと考えています。そこで10年ほど前にオープンイノベーション・モデルを導入し、「Co-Innovation Network ™」(TCS COIN)の構築を始めました。これは世界中のトップクラスの学術研究、新興技術を保有する企業やベンチャーファンド、先進的なテクノロジー企業、タタグループ各社、そして主要なお客様を結ぶ、豊かで多様性に富んだネットワークです。

COINのパートナーは米国やカナダ、ヨーロッパ、イスラエル、シンガポール、インド、オーストラリアという幅広い地域にまたがっています。TCSはこれら地域の主要なベンチャーファンドやキープレイヤーと対話を進めるとともに、さまざまな技術分野における約800の新規事業に取り組んでいます。こうして得られた新たな技術オファリングを、連携を図りながらお客様にお届けしています。

デリバリーを支える「4つのE」

革新を実現するイノベーターが集中すべきは研究であり、エンジニアリングやセールス、商品の市場ポジショニング調査などの業務に追われるべきではない、とTCSは考えます。しかし、商品をお客様にとって意味あるものとし、市場投入までの時間を早めるためには、研究以外の分野にもしっかりと対応しなければなりません。そこでTCSは、イノベーターを純粋に研究に専念させるとともに、彼らの努力の方向性が市場の需要と一致するよう体系的な支援を行う「4つのE」という枠組みを考案しました。

  • Explore(探る):研究開発の「発想」段階です。時間、人材、労力、資金といったリソースが、新たなアイディアや概念を明確にすることに費やされます。この段階の活動はTCSイノベーションラボにおいて、学界と継続的に情報共有し、科学的な厳密さでコンセプト化や問題解決に取り組む、実績ある研究者のもとで行われます。
    TCSの研究プロジェクトの詳細については、www.tcs.com/research(英文)をご覧ください。
  • Enable(可能にする):「Explore」段階で出てきたアイディアの多くについて市場けん引力のマッピングをし、実環境を想定したお客様とのパイロット実験や検証実験を行うアプリケーションやツール、プラットフォームなどの開発に着手します。
  • Evangelize(伝道する):助言やパイプ役として重要な役割を果たします。市場の技術動向を評価し、研究者が注力すべき分野を見落としていないかチェックしたり、研究結果のポジショニングの支援をします。伝道者は研究開発の結果をデリバリーチームを通じてお客様に伝え、お客様からのフィードバックやさらなる研究が必要な分野を研究者に伝えます。
  • Exploit(活用する):「Enable」段階で実験したものの中から、少数ながらスケーラビリティや大量消費の可能性を示唆するものが現れます。この注目すべき結果はTCSのインダストリーソリューション部門に送られ、そこでお客様にとって価値あるものへと充電モードで作り変えられます。例えばTCSツールはこの「Exploit」での成果です。

今日、技術分野でのイノベーションは、次々と現れては消えていく標的を狙うように難しい挑戦です。技術イノベーションで機先を制するには、グローバルな取り組み、素早い市場投入、失敗の許容が不可欠です。前述した3つの戦略、そしてTCS内で育まれてきた揺るぎない文化に支えられ、TCSのイノベーションラボでは、市場における差別化が可能な新しいオファリングを送り出すパイプラインが、次々と生まれています。





K Ananth Krishnan
タタコンサルタンシーサービシズ CTO


1999年からTCSコーポレートリーダーシップメンバーの一人。アーキテクチャと技術コンサルティングの領域で、主席アーキテクチャと主席コンサルタントになり、システムマネジメントとシステムソフトウェアグループの初期のヘッドも歴任。現在は、R&Dとイノベーションを統括するほか、革新的企業・組織との協働イノベーションネットワークの構築なども手掛ける。

※掲載内容は2015年10月時点のものです